発達障害の恋愛問題】                                              「僕は彼女が好きだ。                                  しかし彼女も同じ気持ちだろうか?」

「発達障害」というと学校における特別支援教育のように子供の問題だというとらえ方が一般的です。さらに最近は「大人の発達障害」が問題になりつつあり、職場での人間関係や仕事上のトラブルが取り上げられています。しかし私のように大学の発達障害学生にも関わっていると、子供と大人の間の問題、つまり青年期の発達障害にまつわる問題にも目を向けずにはいられません。その中でも一番気にある問題が、異性の問題。

 

発達障害と言えば主に男性が多いので、いきおい被害や迷惑を被るのは女子学生になり、彼女たちからの訴えで発覚するトラブルもたくさんあります。さらに程度が大きくなると、相手の女性の後をつけたり、待ち伏せしたりというストーカーまがいの行動につながることも有り、大きな問題となっています。

 

また無事結婚したとしても、それで終わりではありません。むしろ結婚というステディな関係になればなるほど、お互いの関係が良くも悪くも深まって来ます。結婚前に交際していた時は限られた時間しか一緒に過ごせませんが、結婚となると一緒に過ごす時間がそれまでよりもずっと長くなります。その為交際していた時には気が付かなかった相手の性格や特徴がわかってくるものです。そしてそこからが本当の絆の深まりにつながって行くのですが、しかし逆に相手の欠点や特性がひしひしと感じられるようになるのも結婚後なのです。

それは「カサンドラ症候群」言う形で表面化してくることがありますが、それについては、また別のところで取り上げています。

 

➤「カサンドラ症候群」とは?

 

今回はとりあえず結婚前の青年期の異性との関わり方について取り上げたいと思います。

 そして発達障害をお持ちの大人・青年が加害者にも被害者にもならないように、私が日頃彼らに伝えている「異性との付き合い方」の内容をご紹介したいと思います。

まず、人を好きになるということは素晴らしいことだということ

まず人に対して興味・好意を持ち、好きになるということは大変素晴らしいことだと思います。これまでもしかしてあなたは人にあまり興味がなかったかもしれません。また興味を持ったとしてもそれが好意と言う形ではなかったかもしれませんね。

 

 その昔、私に興味を持ってくれたA子という女の子がいました。A子は私を男性として好きになったのではなく、私の後頭部の髪の毛の生え際(うなじ?)の形(?)がなぜか大変気に入って、いつも後ろから眺めたり写真を撮ったりしていました。私に付きまとう理由がわかってちょっと残念でしたが、それでもニコニコしながら私の後ろから付きまとっていました。

 

 人が人を好きになるのに理由は必要ありません。生え際の形であっても、眉毛の形であっても構いませんが、相手の人を「異性」として意識して好意を持ったのなら、それはあなたの年齢ならばごく自然で当たり前の感情です。

しかし同性のみならず異性の場合、一般的に社会では「異性とつきあうマナー」というものを身につける必要があります。

 

ただ一方的に関心を持って付きまとったりしてはいけないのです。今から異性(特に女性)と関わる場合のいくつかのマナーやルールを説明します。


 *ここで気を付けなければいけないことは、「人に対する好意」と「人へのこだわり」の区別でしょう。「特定の人を好きになる」ということは、あくまでも相手を一人の全体的な人間存在としてとらえているからできることです。そういう意味で上で紹介したA子などは私に対する好意ではなく、「私のうなじに対するこだわり」でしょう。好意が「愛し、愛されたい」という双方向的な感情だとすると、こだわりはあくまでも一方的な興味・関心がベースになっているといえます。とはいえ、そこの区別が彼らの場合、非常に難しいのも確かです。

女性と関わる場合、必ず了解を得ましょう

同性の間なら、ちょっとした親愛の情で頭や肩に触れることはありますが、異性の場合それは慎重にしなければいけません。また「触れる」ことだけでなく、「話しかける」「会いたくて待っている」「(何かを)教えてあげたい」「助けてあげたい」というような場合でも、必ず相手の人に聞いて、了解を取りましょう。

 

「今お話ししてもいいですか?」「ここで待っていてもいいですか?」「(何かを相手のためにしてあげたいのだけれど)手伝ってもいいですか?」などなど必ず聞いてい下さい。そして相手の人が「良いですよ」とか「お願いします」と言われたら行動に移します。

 

 

もし「今はちょっと困ります」「時間がないので・・・」「ありがとう、でも結構です」「大丈夫です、一人でできますから」などと言われた時には、すぐにやめましょう。あなたが何かをしたい、してあげたいとしても、相手の人がそれを喜ばない場合がある事を覚えておいてください。

自分の好きな事ばかり話さないで、彼女の話を聞きましょう

 発達障害圏の人の中には自分の興味関心のある分野について大変詳しく知識の豊富な方がいらっしゃいます。そしてその分野に対する知識や興味を誰かに共有してもらいたいという気持ちを持たれて、思わず自分の話がとても長くなってしまう方がいらっしゃいます。

 

あなたもそういうことはないでしょうか?

自分で自分をふり返ることが難しいので、分かりにくいかもしれません。もし身近に心を許せる人がいるのなら、一度自分の話し方の傾向について感想を聞いてみるのも良いかもしれません。多くの場合自分の興味のある話題に浸りきって、一方的に話していることがあるようです。如何でしょうか。

 

しかしそれでは相手の彼女に嫌な思いをさせてしまいます。人にもよりますが、基本的に女性は自分の話を聞いてもらうことを喜びます。ですから話題にしても、彼女が興味ありそうな話題に振って彼女の意見や感想を聞くことがとても大切です。

大体の場合、もしかしたらあなたが興味を持っているかもしれない「鉄道」や「ゲーム」、「写真」や「アニメ」などの話題に女性は関心がない事が多いものです。もちろんあなたが興味を持つ哲学や宗教、政治の話題を取り上げることもとりあえずはやめておく方が無難でしょう。

 

ごく一般的に言って女性に話しかけるとき、次のようなことはやめておく方が良いでしょう。

  1. あなたが興味をもっているが、彼女は興味のない話題(鉄道・ゲーム・アニメ・思想・信条など)
  2. 性に関することや身長・体重など身体に関すること
  3. 彼女の個人的な情報(電話番号・住所・アドレスなど)は彼女に『聞いてもいいですか?』と確認して「良いですよ」と言われなければ聞いてはいけません。

またできるだけ交互に会話をつづけるために

  1. 話しかける話題を前もっていくつか考えておく
  2. 相手をほめる事をわすれない
  3. 相手の話には必ずあいづちを入れ、特に話の最後の部分をくりかえして、その後必ず質問を入れる
  4. 自分が話す時間よりも彼女が話す時間を長くする
  5. 相手が話している時、途中でさえぎらず、最後まで聞き続ける

「話し上手は聞き上手」、「コミュニケーション上手は、しゃべらせ上手」、決して自分のおしゃべりが長いことがコミュニケーション上手ではありません。なかなか難しいですが頑張ってみましょう!


*この問題は発達障害圏の方々には大変難しい課題です。

私はコミュニケーションのトレーニング・グループを開催して、会話の練習を皆さんにしてもらっています。その中でお互いに「相手の話を聞く」という課題に取り組んでもらっています。そこでは会話のやり取りを説明して、どうすれば相手の人に気持ちよく話をしてもらえるか、という取り組みをしているのです。

そうするとそういう練習の場では、皆さんそれなりに相手の話を「あいずち・うなづき」をしながら、相手の話の最後の部分を「オウム返し」して繰り返し、そして「5W1Hに基づいた質問」をしながら上手に話を聞けるようになられます。

  

ところが問題はその相手の話を聞くスキルがその場ではできても、日常の会話になると全く使えないのです。よく発達障害圏の方々の特性として「一般化が難しい」「搬化が困難」といますが、今ここでできるようになっても、それが他の場面で応用して使うことがなかなかできません。そうしてほとんどの場合、自分の興味がある内容を語りたいだけ語りつくすことで満足する場面が見られるのです。それでは会話としては成り立ちません。場合によっては「ちょっと話しが長すぎるよ」とはっきりと伝えた方が良いこともあります。そしてその都度、会話はキャッチボールであることを粘り強く伝えていくことでしょう。

 

 

逆に話が苦手な場合は、トーニング・グループなどを活用して自分の趣味や興味関心のなることを話す機会を作ってあげて下さい。

むやみに近づいたり、しつこくするのはダメ

これも良く問題になることです。もしあなたが「相手との距離感をつかむ」と言うことが苦手であれば気をつけましょう。距離感をつかむというのは抽象的な意味だけでなく、実際に人との距離が近すぎて、簡単に相手の肩や頭に手を触れてしまう人もいます。勿論逆に人に触れることが苦手な人もいるでしょうが、それにしてもそれなりの距離を保つことは大切です。

 

一般的に相手との距離を測る時の目安は

1)家族関係の距離(大体ひじから指先ぐらいまでの距離:「小さく前へならえ!」という号令の距離)

2)良く知っている人や友人関係の距離(両手を前に伸ばしたぐらいの距離):「前へならえ!」という号令の距離)

3)良く知らない人や初めて会う人との距離(両手を伸ばしたぐらいの距離)

と言われます。

1)の距離感以上に接近すると相手の人は少し怖くなります。彼女には初めからあまり接近するのはマナー違反です。

 

そういう具体的な距離感だけでなく、次のようなこともしてはいけません。

<してはいけないこと>

1)何度もメールやライン、手紙などを送り続けてはいけません。

2)何度も相手の携帯や職場に電話をかけ続けたりしてもいけません。

3)何度もプレゼントを送り続けたりしてもいけません。

4)好意をもった相手をじっと見続けたり、相手ののうしろをつけていったりしてもいけません。

5)相手の家や職場にまで会いに行ったり、待ち伏せをしたりしてはいけません。

6)それ以外にも、相手が嫌だと言っていることをしつこく続けたりしてはいけません。

 

そういうことを繰り返すと相手の人は怖くなって、警察に連絡される場合があります。そうなると「ストーカー容疑」で注意・警告を受けたり場合によっては逮捕されたりすることもあります。 


*ただ、こういう行為をしてはいけないと伝えて本人も納得しても「いけないことは分かっているんですが、はっと気が付いたらその人のうしろをつけているんです。」という場合もあります。例え意識的でなくても、その行為は相手に取って迷惑であり結果的に犯罪につながりかねないことを繰り返し伝え続けることが大切でしょう。

相手の気持ちを確かめるサインを学ぼう

あなたが彼女に興味があるからと言って、彼女もあなたに興味があるとは限りません。たとえ言葉ではっきりと拒否されなくても相手の気持ちを読み取るサインを覚えておきましょう。

 

右の4人の女性の写真を見てください。4人ともあまり興味や好意をもっているようには見えないと思います。もしあなたがそれに気づかないようならば、この際ぜひ覚えておいてください。

 

4人の女性に何か共通するポーズはありませんか。

そうです、次の点が共通しています。

1)笑顔がない

2)目をそらしている

3)腕組みをしている

などですね。2)の目をそらしている時、自分の腕時計を何度も気にして見ていることもあります。これらのポーズのほかに、あなたから遠ざかろうとどこかへ行こうとしている時も、残念ながらあなたに興味がない時のサインです。

 

こういうサインが彼女に見えた時は、残念ですが話しかけたり近づいたりするのはやめておきましょう。

そうしないと逆に彼女から嫌われてしまうことになりかねません。

あなたが彼女に好意を持っても、彼女があなたに好意を持っているとは限らないのです。



<右のような場合、良いサインかもしれないです>

「僕は彼女が好きだ。だから彼女も同じ気持ちのはずだ」と思い込んではいけません。むしろその思い込みは外れていることが多いのです。彼女がはっきりと行為を言葉で伝えてこない限りは、決して両思いだと決めてかかってはいけません。

 

一般的に言って、彼女があなたに好意を持っている時、次のようなサインが見られます。

1)あなたの目をじっと見つめる

2)あなたが面白いことを言わなくても笑顔が見られる

3)彼女の方からあなたに近づいてくる

4)あなたが近づいても、嫌がったり、離れていったりしない

5)彼女のほうからあなたに話しかけたり、質問してくる

などのサインが見られます。

 

ただし本当に好意を持ってくれているかどうかは、本人に確かめなければわかりません。

 

          

       *この女性はモデルさんです。


フラれたときにはあきらめる

彼女に対する思いが高まって「好きだ」と告白する時があるかもしれません。彼女も同じ気持ちならよいのですが、もしフラれたとしても落ち着いてください。誰でもフラれた時は傷つきますし、がっくり来ます。しかし彼女が断った理由はあなたとは関係のないことかもしれません。今は忙しくて男性とお付き合いする余裕がないかもしれないし、もしかしたらすでに彼氏がいるのかもしれません。

 

それはそれであきらめるしか仕方がありません。場合によってはあきらめられない気持ちになるかもしれません。しかしこれまでも触れてきたようにしつこく付きまとうと逆に嫌われてしまいます。例え恋人として付き合うのは無理でも、友人として話すぐらいのことは許してくれるかもしれません。何度も何度も言い寄っても結果は同じだと思ってあきらめることを覚えてください。

 

自分の好きなことや趣味の世界に戻って、自分なりに気分転換をすることも大切です。

短気をおこして人間関係を断ち切らないようにしよう

相手にフラれた時は仕方がないのですが、時々発達障害の方に見られる特徴に「自分の気持ちだけで相手との人間関係を一方的に断ち切っていしまう」ということがあります。相手と何かトラブルがあった時ならわからないこともないのですが、どちらかと言うと自分の気持ちだけで突然連絡を絶ってみたり、メールやラインをしても全く返信しなくなったりすることもあるようです。単に「連絡をするのがめんどくさくなった」とか「連絡する気がなくなっただけ」という理由で関係を疎遠にすると、相手の人は多くの場合「もしかして自分が何か悪いことや失礼なことをしたのではないか?」と不安や罪悪感に悩まされてしまうことが多いのです。

 

自分の気持ちに正直に行動しているだけなので悪意はないのでしょうが、相手にも気持ちがあるのだということを少なくとも頭の上では理解をして、人間関係のマナーの一つとして突然の関係遮断はしない方が良いと思います。

もし何か連絡を取りたくない具体的な理由がるのならば、できるだけ言葉で説明をしてその気持ちを伝えるか、問題を解決する努力をしましょう。

彼女が「良い」と言わない限り、彼女の身体に触ってはいけない

もしあなたが接触過敏などで身体接触が苦手ならば、この話は少し関係がないかもしれません。しかしそうでないのならば、好きな相手ができた時に身体接触をしたいと思うようになってもおかしなことではありません。

 

ですがこれは大変ナイーヴな問題であり、最初の方にも書いた通り、あくまでも相手の了解を取らなくてはいけない問題なのです。特に人のパーソナルスペース(大体『前へならえ!』の時の両腕を伸ばした距離ぐらい)の中に入って行く時は必ず相手の了解と同意を得てからにしましょう。

 

一般的に女性の身体に触れるというのは相手に取っても大変緊張の伴うものです。子どもの頃ならば、人の手に触れたり握手をするという行動もそれほどとがめられませんが、思春期を超えた年齢になると相手の了解なしに触れてはいけません。

 

ところが特に日本の女性はなかなか「やめてください」という言葉を相手に直接ぶつけることに慣れていません。ついつい我慢したり、表情や身振りぐらいで間接的に伝えようとしますが、そのサインを見落としがちな発達障害圏の男性の場合、結果的に失礼な行動となってしまうこともあるのです。



*私も被害者側の女性からどうしたらよいか相談を受けることがあります。そういう時はまず「はっきりと『いやです、触らないでください』と言ってください。その方が彼もわかりやすいのです」と答えることがあります。そして彼に悪意がなければ「女性との関わり方のマナー」として身体接触は必ず同意を得ること、場合によってはそれは犯罪になってしまうのだ、ということを教えてあげて下さい。多くの方は納得して理解すれば、その後の行動は変わってきます。しかしそれでも行動が変わらない場合、周囲の責任者や場合によっては警察に連絡してしかるべき対応をしましょう。

最後に

このコラムは主に男性の発達障害青年を想定して女性との関わり方についてまとめてきました。これらの内容は私が色々な専門の本から学んだものや私自身の経験から工夫して考えをまとめたものです。ただ一般的な内容になるので、一人一人の性格や障害特性の軽重、または育ってきた生育歴などによって工夫した伝え方が必要になってきます。

 

それと彼らに色々なことを伝えた時、その場、その関係の中では納得してくれるのですが、別の場や状況、違う人との関係性の中ではそれが応用・搬化できないことがままあります。そういう時にはやはりその都度その都度、チャンスに応じて説明して納得しもらう努力が必要です。単純に叱責したり、「何度言ったらわかるんだ!」的な批判をしても、怒られたことは伝わっても、その内容については伝わらないことが多いようです。そして怒られる回数が増えるたびに「自分はなんてだめな人間なんだ」という自己否定的な考え方と無力感が増してきて、結果的に二次障害としての反社会的な行動パターンが増えてきてしまうことにつながりかねません。

 

発達障害の特性の中に、「視覚優位」「聴覚優位」という特性があります。「視覚優位」ならばできるだけプリントなどを用意しての字を見ながら伝えましょう。また「ワーキング・メモリー」と弱い人には「繰り返し伝え続ける」ことをやっていきましょう。

「何度言ったらわかるんだ!」ではなく「行動が変わるまで何度でも言い続ける」ことが対応として求められます。

 

そしてできるだけ異性との良好な関係を経験して、人と関わることはステキな事なんだ、という良い経験を積み重ねていければこんなに素晴らしいことはないと思います。

 

また女性の発達障害女子にとっても異性との関わり方は大変重要な問題です。これについても何冊か本は出ていますが、私もチャンスがあればいずれこのコーナーでまとめてみたいと思っています。