止められない怒りにどう対処すればよいか


最近、「アンガーマネージメント」という言葉をよく聞きます。こういう言葉が普及するということはそれだけ「止められない怒りに困っている」人がたくさんいるということでしょう。確かにメディアでは小さいな子どもへの虐待のニュースが後を絶ちませんし、街中で突然持って行き場のない怒りを犯罪という形で発散させてしまう事件もあります。

「怒り」への対処は今の世の中では大きな問題なのかもしれません。


ああいう事件を起こすのは特別な人たちなのか


では虐待や犯罪を起こす人たちは果たして「特別な人たち」なのでしょうか。

 

たとえば幼い子供を虐待したり、一方的な思いで暴力を振るう理不尽な事件や残虐な事件が起きると、世間は加害者の病的な要素や発達の問題に結び付けて「特別な人がしたことだ」と解釈しがちです。

 

しかしH29年度の「犯罪白書」を見ると、刑法犯全体の中で精神障碍者の占める割合はわずか1.8%、殺人事件を見ても14.8%にしかすぎません。明らかに少数であり、犯罪のほとんどは病的な要素や発達に大きな問題のない加害者によるものなのです。

 

ですから理不尽な事件に対して「あれは特別な人間が起こしたことだ」という安易なストーリーに納得することなく、むしろ私たち自身も「彼らと同じ心理状態に追い込まれたとき、自暴自棄な行動を起こしてしまう可能性があるかもしれない」と謙虚な自覚を持つことが必要でしょう。

 

皆さんの中には、自分の怒りが止められずに大変なことになってしまうのではないか、と危機感と恐れを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。それは「アンガーマネージメント」という技術で対応するには無理かもしれません。


ではどうすればよいか ~まずは自分を観察すること~


ではどうすればよいか。たとえば台風が来た時に、その真っただ中に巻き込まれると混乱して自己コントロールが効かなくなります。そうならないために、台風情報で台風の大きさや進路、そして台風が上陸してくる時期を予測し、それに備えておけば被害は少なくて済むはずです。

 

怒りの台風も同じ。

自分の怒りのパターンや被害を防ぐための準備をしておけば最低限のダメージで済むわけです。それがこの下の図。

ちょっと見にくいかもしれませんが、これは私が研修会などでよく使う図です。

怒りやパニックをよく観察してみると一定のパターンがある事に気が付きます。

 

1)それはこの白い四角の中の波のような図です。つまり最初は「落ち着いた気持ちのレベル」にいるわけですが、何か

      をきっかけとして怒りが湧いてきます。それは波のように盛り上がり興奮状態のピークへと至りますが、しばらくする

      と次第に怒りは収まってきます。

 

しかし問題はその後。

 

2)怒りやパニック状態になった後、ほとんどの人は「またやってしまった・・。あれほど怒ってはいけないと自分に言い

  聞かせていたのに・・・」と罪悪感に襲われます。これが「落ち込み状態」と書かれたマイナスの波の最下点。そして

  これが何よりも一番辛い時期です。

 

そしてその後、「今後絶対にこんなに爆発はしてはいけない」と心に誓うのですが、残念ながらその誓いは破られてしまうことになりがちです。つまり怒りと言う感情は、意識の力ではコントロールがなかなか難しいのです。そして結局しばらくは気持ちを落ち着けるものの、再び何かをきっかけとしてまた爆発へ・・・。

 

3)ここであきらめないでください。一度で怒りのパニックがなくなるものではありません。大切なのは自己コントロール

  力を育てていくこと。つまりたとえば1か月の間に何回怒りの爆発が起きてしまうか、その回数を観察し変化していく

  様子を記録しておくことです。


自己コントロールの3つの目安


さて自分のパニックについてのパターンが理解できれば、次はその分析にうつります。その時の目安は「荒れの程度」「荒れの継続時間」「荒れの生起頻度」の3つのポイントです。


<荒れの程度>

荒れの程度とは「怒りの頂点に達した時の自分の行動の激しさ」と「その後の罪悪感・落ち込みの程度」の振幅の幅を言います。波の最上点から最下点までの揺れ幅の大きさと言ってもいいでしょう。



<荒れの継続時間>

荒れの継続時間とは、「怒りを感じ始めた時から、怒りが収束して平常心に戻るまでの期間」を言います。怒った自分を責める気持ちや罪悪感が消えるまでに数時間の人もいれば数日かかる人もいるでしょう。



<荒れの生起頻度>

荒れの生起頻度とは、一定期間を定めて(1か月程度)、その間に何回怒りのパニックが起きたか、その回数を言います。1か月に4~5回起きていたパニックが、いつの間にか2~3回に減ってくれば大分楽になります。



 

どうですか、「荒れの程度」「継続時間」そして一定期間に何度爆発したかという「生起頻度」の3つを理解していただけましたか。理解して、自分の怒りのパニックを客観的に振り返り観察することがまず第1のステップです。

 

そしてこの3つのポイントを少しずつコントロールしていくことが結果的に怒りのパニックを減らすことにつながります。

つまり「荒れの程度が収まってきて、以前なら暴力や破壊行動が見られたのに、最近は暴言やふてくされ程度で収まってきた。たとえ荒れたとしても以前なら立ち直るのに3~4日かかっていたのが、2日程度で気分が安定してきた。さらにこれまで暴力や破壊行動が1か月に4回見られたのが最近は2~3回に減ってきた」という具合です。

 

こういう風に外に現れてくる行動を振り返ることで、怒りに対して少しずつ冷静に対処する力が育ってきます。


一人では難しい。励まし、サポートしてくれる人と一緒に取り組もう


ここまで簡単に自分の怒りに対して観察し冷静に立ち向かう方法を説明してきました。しかしただ観察さえすれば怒りがすぐに収まるというわけではありません。それ以外にも沢山の取り組む工夫はありますが、それはこのショート・コラムでは描き切れません。

 

それとは別に、どんなに反省してもどうしても繰り返し怒りが湧き起ってくる時、その背後には「過去の傷つき体験」が影響を及ぼしていると思っていいでしょう。

 

その時の状況が「過去の傷ついた状況と重なって見えている」から、その時点での恨みや憎しみが再燃してくるのです。それをトラウマと言っても良いし、傷つき体験、無意識のコンプレックスと言ってもいいでしょう。

 

あなたが本当に怒りの対処に取り組む覚悟があるのであれば、そういう怒りの背景や対人関係のトラブルの繰り返しの源を見つめ、向き合い、現在まで尾を引いている感情的なもつれをほぐしていく取り組みは欠かすことができません。しかしその作業は一人ではなかなか難しく、横に寄り添い、理解し、サポートし、時には励ましてくれるサポータとともに取り組むことが良いと思います。

 

自分の過去との決別を決意されたときは迷わず専門家に相談をしてください。

私たちはそのためにスタンバイしています。