ジェームス・サーバー「世界で最後の花」

〝みなさんもごぞんじのように 第十二次世界大戦があり  文明が破壊されてしまいました。〟

から始まる、ジェームス・サーバーの「世界で最後の花」

*写真はAmazonより
*写真はAmazonより

「絵のついた寓話」という副題にあるように、大人の絵本というより時代をシニカルに、そしてシビアーに、そしてユーモアと愛をもって描いた短編小説に近い印象です。

 

内容は「戦争を繰り返す人間の愚かさと救いのなさと、そしてそれでも希望を持ち続けることの大切さ」ということではないかな。

 

サーバーと言えば「ウォルターミティの秘密の生活」や短編集「傍迷惑(はためいわく)な人々」などで、独特の個性を知られている方ですが、その個性はこの本の表紙にもある、独特の落書きのような味のあるイラストで有名です。

 

 

訳者の村上春樹さんのあとがきによると、サーバーさんはほとんど全盲状態であったらしく、その状態で書き散らしたイラストをポイポイゴミ箱に捨てていたところ、同僚がその絵を見て「これ、なかなかいいんじゃないか」と着目されたそうです。

なんだか人柄が浮かび上がってくるようなエピソードです。

 

ただ先にも書いた通り、この本の内容は戦争を繰り返す人間の愚かさを見事に表していますし、第二次世界大戦が始まった直後に刊行されていますから、彼の反戦の思いと、それでもこの世の中への希望は捨てないという人間愛への確信は筋金入りだったのでしょう。


〝みなさんもごぞんじのように 第十二次世界大戦があり 文明が破壊されてしまいました

 町も、都市も、村も、地上からそっくり消えてしまいました。〟

〝世界にはまったくなにひとつ残りませんでした

 

  ただ一人の男性と ひとりの女性と そして一本の花だけはべつにして〟


 

 

 

繰り返す戦争によって残されたもの何だったのでしょうか?

そして今も。

 

 

「世界で最後の花 絵のついた寓話」

ジェームスサーバー著 村上春樹訳 ポプラ社