「人間の最大の長所で、最大の欠点は・・・」

昔、私がまだ若い頃に見た映画の中で、南アフリカのアパルトヘイトの社会の様子を取り上げる場面がありました。

そこにはその差別の社会の中に生きる黒人の人たちが「あきらめたような様子」で従順に生活している様子が描かれていました。そしてそれを問題視しているある同輩の黒人がこう言いました。

「人間の最大の長所で、最大の欠点は・・・」

さて・・・に何が入るでしょう?

 

私はこの言葉を聞いた時に胸にズキンと痛みを感じました。

その言葉は「人間の最大の長所で、最大の欠点は、『慣れる』ということだ」。

 

最近、私が通勤に利用しているJRが度々「運転見合わせ」となっています。それはJRによれば「電車とお客様の接触」があったということですが、確かに「接触事故」もあるでしょうが多くの場合は「人身事故」であるのではないかと思います。

昔私が若い頃、ごく時折起きる「運転見合わせ」に「・・・もしかしたら誰かが自死を・・・」と感じて、なんだか非常にもって行き場のない哀しみを感じたことがあります。しかしその時にふと電車内の他の乗客の様子を見ると、ほとんどの人が運転手の「電車とお客様の接触があり・・」というアナウンスも聞こえていないのか、何もなかったかのようにスマホを眺め続けていました。その様子を見て、何とも言えない気持ちになったことを覚えています。

 

しかし年月が流れて今の私は自分が乗っている電車が運転見合わせになった時に、思わず「またか・・。この朝の通勤ラッシュの時に・・」とつぶやく自分がいます。一人の人が何か重大な状況になっているかもしれないというのに、自分はこういう反応をするようになったのか、と自分の変わりぶりに黙って目を伏せてしまいました。

 

「慣れる」ということは、決して悪いことではないでしょう。熟練した職人や身についたスキルは長い年月をかけて慣れ親しんだ結果であるともいえます。努力や訓練は次の段階へのステップにつながります。

 

しかし同時に「慣れる」ということは「感受性を鈍くする」ということに通じるのでしょう。それが自分自身の苦境であれば、あの映画のアパルトヘイトの逆境に目をふさいだ当時の多くの黒人達のように、「あきらめ」たり「どうせ何をしても無理だ(学習性無力感)」という諦念につながりかねません。

 

人間の最大の長所であり、最大の欠点は「慣れる」ということ。

私は最近ニュースで流れてくる戦争や紛争での民間人の苦しみの様子に、この言葉を思い出すとともに、次第に「慣れてきている」自分がいることに戸惑いを感じています。