「WRAP」って、音楽じゃないよ、~2~              Wellness Recovery Action Plan の頭文字です。

さて、WRAP=元気回復行動プランの説明、後半に入ります。

 

前回は、まず自分をご機嫌にするきっかけや、こういう自分になりたいというイメージを固めていくということでした。気分一致効果ということを前々回にお話ししましたが、確かに自分の気分を上げておくと、思い出すことや頭に浮かぶ内容はどちらかというとポジティブな内容にあります。それはとても大切なことです。

 

しかし人間、そうは言っても誰でも気分に波はあり、上手くいっている時はいいのですが、調子を崩すときもが来ることも予想されます。後半はそのことを事前に考えて用意しておこう、という内容です。

 

人間というものは、数学のグラフのように右肩上がりで調子が上がっておくものではありません。3歩進んだかと思うと、2歩下がる。時には5歩下がる時もありますが、そのことをあらかじめ想定しておいて、何が起きても「想定内」であることは気持ちの安定に繋がります。

 

1.元気の道具箱

これは自分の気分をポジティブにしてくれる様々なアイテムや活動を、あらかじめ用意しておく、ということです。例えば自分を元気づける「音楽」とか「行動」とか、「習慣」とか「言葉」や「仲間」も含めた様々なアイテムを自覚して準備しておきましょう。

そしてちょっと落ち込み始めた時に、その道具箱から何かその時の気分にあった物を取り出して自分のご機嫌目盛りを回復しましょう。

2.日常の生活管理プランを確認する

次に自分が調子が良かった時の日常生活を取り戻すために自分を見直します。例えば調子が思わしくなくなると、どうしても生活リズムが狂いがちですが、規則正しい生活(食事やお風呂、テレビや趣味の時間など)を振り返って、「調子がよかった時はどういう生活をしていたか?」を思い出します。自分の生活を客観的に見直して、コントロールする取り組みだと言えますね。

3.引き金とその対策プラン

自分を客観的に見つめるという点ではこれも同じ。自分が「どういうときに調子を崩しやすいか」「自分が調子を崩しやすい考え方や口癖・自動思考」を自覚して、調子を崩す「引き金」に気を付けておくこと。そしてそれに対してどういう対策を立てるかも作戦を立てておきます。

4.自分のSOSを自覚しておこう

3.が自分の外からの引き金だとしたら、4.はその時の自分の反応やSOSサインを自覚しておくことです。例えば睡眠のリズムが狂う、食欲がなくなる、腹痛・頭痛など身体に反応が出始める、物音や人の声が自分の悪口のように聞こえてくるなど。そういう状態は自分自身のSOSサインですから、それが出始めた時にどうするか、対策もあらかじめ準備しておきます。例えば服薬するとか、誰かに相談するとか、自分の生活リズムの確認のための記録を付けるなど。

5.落ち込みリストを作り対策を立てる

さてそれでもなかなか改善せずに、「これは深刻だな」「かなりしんどい」と言い様な状態になってくる場合もありますが、その時でも感情に振り回されずに、できるだけ客観的に「自分の落ち込み状態のチェックリスト」を作り、それに対する行動プランもあらかじめ立てておきます。例えば「日常の生活プランを守る努力をする」「これ以上悪化した時、どこに、誰に、何を相談するか」などの具体的な行動プランを立てておきましょう。

6.クライシスプラン

さてここからは、ある意味今の状態を改善するのに自分だけでは間に合わず、外部の力を借りざるを得ない状態となります。例えば

「自分のケアを依頼ししたい人は、誰か(友人・家族・医療関係者・支援関係者など)」「連絡先と薬の情報」「入院を考えざるを得ない時に希望する病院。希望しない病院」「自宅での生活を維持する場合、利用できる社会資源」などをできるだけ具体的に調べておきましょう。

7.クライシス脱出後のプラン

対策はクライシスだけに狙いを置いたものではなく、復帰後の日常生活も視野において立てておきたいものです。学校や職場への説明や連絡を持ち続けることは復帰には欠かせません。周囲へどう理解を求めるか、具体的に対策を考えたり、配慮を求めることも大切なことです。


さてWRAP(元気回復行動プラン)の7つの項目について簡単にまとめてみました。

WRAPは基本的に「精神障害・疾患に対するリスクはあっても、あきらめることなく、希望をもってチャレンジしていく」という考え方が背景にあります。そしてできるだけ自分を客観的に眺め、様々なリスクに対する対策をあらかじめ立てておく、ということが中心になっているとも言えるでしょう。

 

障害や疾患の在りようは人によって様々ですが、「自分の人生を主体的に生きる」ということは共通しているテーマなのかもしれません。