「リウーを待ちながら」朱戸アオさんの作品を巡って

神戸のカウンセリング・オフィス岸井 リウー
*写真はAmazonより

朱戸アオさんの「リウーを待ちながら①~③」と言う作品をご存知でしょうか。すでに一部では有名になっているのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。朱戸さんはテレビドラマにもなった「インハンド」シリーズなど、医療サスペンスとでもいうような分野の作品を書かれています。どれも専門的な医療知識がふんだんに使われた大変な力作だと思います(朱戸さんご本人のブログを読む限り、医療関係の専門家であるわけではないとのことですが、作品を描かれる前にかなりの取材と勉強をされた跡がうかがえます)。

 

そのいくつかの作品の中でもたびたび表されるテーマが「感染症」。

現在の新型コロナ感染症の状況を考えると大変意味深く、読み返すたびに感銘を受けます。左にあげた第1巻の表紙を見ても、全身を防護服で包み、フェイスシールドやゴーグルなどで感染を予防しながら治療に当たっている現時点での医療従事者の姿そのものです。

ところがこの作品が描かれたのが、なんと2017年だというからビックリです。

 

それ以外にも現在なら理解できる「アウトブレイク」「ロックダウン」「基礎(実行)再生産数」「パンデミック」などの単語が当たり前のように登場してきます。驚きですが、実はこういう体験は過去に「ペスト」や「エボラ出血熱」や「サーズ」や「マーズ」などの感染症に見舞われた地域では見慣れた単語だったのかもしれませんね。

 

迷ったのですが、残念ながらこれ以上「リウーを待ちながら」のストーリーをここでネタバレさせてしまうと、実際に読んだ時の感銘が半減するので、出来れば興味を持たれた方は直接本を手に取るかkindleなどで電子書籍をご覧ください。その方がいいと思います。

 

そこでできるだけネタバレにならないぎりぎりで紹介しようと思うのですが、このタイトルの「リウー」と言うのは実はアルベール・カミュの作品「ペスト」の中の主人公、医師の「ベルナール・リウー」のことです。カミュの「ペスト」をお読みになられた方ならばなおさらこの作品が理解できると思いますが、現在の新型コロナ感染の状況で「人はどういう風にこの状況を受け入れ、あるいは拒否し、あるいは逃避」し、そして最終的に「自分はこの事態を、あるいはその結果である『死の思いもかけぬ訪れ』という不条理を自分の人生にどう組み込んで生きていくのか?」と言う逆説的な生きる意味を自問自答させられる作品ではないかと思います。

 

もし興味があれば一度手に取って見て下さい。

少し前の作品なので、一時期絶版で中古でさえ1冊何千円と言う値段で取引されていましたが、最近講談社が緊急重版してくれて、今なら定価で手に入るようになっています。でもいつまで在庫があるかな?と言う感じなので興味のある方はお急ぎくださいね。電子書籍ならいつでもありますけどね。

 

最後にちょっと関係ありませんが、東京が早く落ち着きますように願いを込めて・・・