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自己回復力

人間には、意識が一面的になりすぎた時、それを補償する無意識の働きがあると言うことを言ったのはユングである。逆に無意識が動きすぎた時、意識がそのバランスを取って自分自身に対する自覚をもたらしてくれるとも。私が取り組んでいる心理療法も、ユングの言う補償が引き起こされる可能性を信じるところに成り立っている。

この補償という自己調節機能は、人間の心理面だけに見られるものではない、生理学的に言えば、ホメオスタシス(恒常性)にも関連があろうし、もっと身近に言えば自己回復力とも言ってよいのではないか。人間にはそういう可能性がある。それが生きる希望にも繋がっている。

少し前になるが、テレビを見てびっくりした。なんと脳性まひの回復についてのニュースが流れていた。脳性まひの子どもにへその緒から取ったさい帯血の一部を移植して症状の改善を図るという臨床研究の計画を立て、国の承認を受けた、というのだ。高知大学が向こう5年間で、10人に実施すると言う。

同時にその方法を実験的に行った結果、歩行も困難であろうと予測された子どもが成長とともに機能が改善し、今は元気で走り回っているという映像も流れたのである。

もしこの治療法が確立されれば、これは画期的な大事件だ。これまで多くの脳性まひの子どもたちが生まれ、その療育や治療に、本人や家族はもちろん障害児教育に関わって来た人たちが取り組んできた。その人たちにとって夢のような可能性が広がる。私も以前は肢体不自由児・者との関わりを持たせていただいた経験から、このニュースを聞き逃すわけには行かない。

「人間には自分の異常を自分で治す、『自己回復力』がある」と言うコメントも紹介されていたが、心からそれを信じたい。IPS細胞を含め、ここ最近は人間の回復力・復元力を利用した治療法が生まれてきつつある。心理的な面でも、生理的な面でも人間は自分で自分を回復する力を持っていると言うことは、人間の未来に対する希望を持たせてくれる。

カウンセリングもそれを信じるところから始まる。