「気が付いたらまたあのことを考えていた」時の対処法

「あぁ~、またあのことが頭から離れない。考えないようにしようと思っているのに」「気が付いたらまたあのことを考えていた」というようなことはありませんか?

 

例えば何か気になる出来事があると、忘れてしまいたいという気持ちと裏腹に、「考えたくもないことなのに、気が付くとまたそのことや相手のことを考えている自分に気が付いて憂鬱になってしまう」というようなことを繰り返している・・・。夜中に目が覚めたらそのことばかりが頭に浮かんできて眠れなくなったり、またそういう時に限って角を曲がると会いたくもない人と出くわしてしまうようなことが起きて、なおさら嫌になってくる・・・。

 

相手が「人」であっても「気になる事柄」であっても、「考えなくもないのに頭から離れない」時の対処法の一つを紹介します。

「条件反射制御法」という方法をご存じですか?

「条件反射制御法」という方法を聞いたことはあるでしょうか?

なんだか漢字ばかりで難しそうですが、実はこの方法は実に実践的で、実際に治療の場面で使われている方法の一つです。

そもそも条件反射制御法(CRCT)は、2006年から千葉の下総精神医療センターの薬物関連性心疾患専門病棟で当時勤務されていた平井槇二先生によって開発され、薬物依存に苦しむ患者さんに適応され、効果を上げてきた方法だということです。

詳しいことは、平井槇二・長谷川直美先生の著書に詳しく記されています。

*写真はAmazon より
*写真はAmazon より

 

「なんだか難しそうな名前だし、薬物依存の人に使う方法なんて私には関係ないだろう」と思われる方もいらっしゃることでしょうが、しかし薬物にしてもアルコールにしても依存された方の場合、「いけないとわかっていても、どうしても誘惑の声が聞こえてくる」といいます。頭の中からその考えがどうしても追い出せないのは、程度の差こそあれ、冒頭に挙げた状態と同じだと言えます。そしてこの本を読むとこの方法は実に簡便で、しかも無理なく取り組むことができる方法なのです。

 

詳しくは平井先生などの描かれた専門書を読んでいただくとして、簡単に説明すると条件反射制御法は大きく4つの治療ステージに分かれているということです。その中でも今回のテーマに深く関係しているステージが第1ステージなので、それについて少し詳しく説明しましょう。

 

 

◇◇◇ キーワードとキーアクションの設定を行う ◇◇◇

第1ステージ:これはキーワード・キーアクション設定ステージともいわれます。

1)キーワードの設定

 これはまずやめたい行動や症状について「自分は今それはできない」という意味をあらわす簡単なフレーズを設定していきます。それは例えば薬物依存やアルコール依存のような場合は「私は今、覚せい剤はやれない」「自分は今 お酒は飲めない」というフレーズになりますし、冒頭に述べたようない色々な思いが頭から消えない場合は「自分は、今それを考えない」「そのことを考えるのやめろ」「頭からその考えを放り出そう」というよなフレーズでもよいように思います。

 

2)キーアクションの設定

これはキーワードを唱えると同時に行う、簡単な身振りやアクションのことです。何も大げさなことでなくてもいいので、例えばこぶしをギュッと握りしめるとか、胸に手を当てる、とか、おでこにある考えをギュッとつかみ取って投げ捨てる、とかのような自分なりのアクションを設定します。

 

神仏に祈りを捧げるときに「来年こそ良い年でありますように」と心の中で唱えながら、手を合わせたりかしわ手を打って礼を繰り返すような動作をしますが、それと同じで願いと動作を同時に行うことで能動的に印象を強くするというような意味があるようです。

このキーワード・キーアクションが心理状態を切り替えるスイッチみたいなものでしょう。平井先生の本によると、場合にもよりますが1日に5~20回程度、繰り返すことが大切だと言います。

 

この第1ステージの「キーワードとキーアクションの設定」がまずスタートです。私も自分で実践してみたり、この方法を紹介した方の感想を聞くと、ある程度の効果があることがわかります。

 

 

*平井先生の著書では、薬物依存やアルコール依存の方を例として説明されているので、次の段階として第2ステージ~第4ステージへと進んでいきます。ちなみに第2ステージは、疑似ステージと言って例えばアルコール依存の方の場合、実際にワインの瓶に水を入れてそれをワイングラスに注ぐ動作をしてもらい、その時に「お酒が飲みたい」「ちょっとぐらい飲んでも大丈夫だ」という考えが浮かんできた時に、キーワードとキーアクションをして気持ちを切り替える、というトレーニングに入ります。そして第3次ステージは、頭の中で酒場の雰囲気を思い起こしたり、そのDVDを流しながら、問題行動に至る典型的なエピソードを想像してもらい、自分を誘惑する気持ちがわいてきた時にキーワード・キーアクションで気持ちを切り替える、第4ステージは第3ステージまでで自分の気持ちのコントロールができた来た時に、それを将来にわたって維持していく「維持ステージ」になるということです。

意識の切り替えのテクニック

さてここまでは条件反射制御法の考え方を参考に、キーワード・キーアクションを設定することをお話ししました。この第1ステージを「頭に嫌な考えが浮かんだらすぐ」「1日に何度も繰り返して習慣化する」ことを、まずは実践してみてください。これだけでも根気強く取り組めばかなり効果があることがわかると思います。しかし私はその方法に加えて、もう一つの取り組みをしてみることをおすすめしています。それをここでは「意識の切り替えのテクニック」と呼ばせていただきます。

 

と、言ってもこれも全く簡単なことで、すぐにできますからご安心ください。

簡単に言うと「人は同時に二つのことを考えることはできない」というごくごく当たり前のことを応用した方法です。例えば、今皆さんに「昨日の晩御飯のおかずは何でしたか?」と聞くと、10人が10人「え~~っと、何だったかな?魚だったか、肉だったか?たしか焼肉を食べた覚えがあるけど、あれは1昨日だったっけ?」と思い出そうとされるでしょう。そのお思い出している最中は、絶対に別のことは思い浮かんでいないはずです。

 

で、あれば「頭に嫌なことや気がかりなことが浮かんで消えなくて困っている」、その時に別のことを考えるようにして意識を切り替えれば、少なくとも別のことを考えている間は厄介ごとからは解放されているわけです。「テクニック」とわざわざ呼ぶほどでもないことですが、意識を別のことに向ける技術を「意識を切り替えるテクニック」と呼んでいます。

 

では具体的にはどうすればよいのでしょうか?

私が皆さんにお勧めしている方法は主に次のようなことです。

◇◇◇ 色を探す ◇◇◇

今皆さんのいる場所で周囲を見渡してみてください。自分の部屋や職場でも、あるいは電車の中でも構いません。その景色の中で、例えば「赤い色」を探してください。見つかりましたか?次に「青い色」、その次は「緑」、「黄色」、「茶色」、「紫」、「オレンジ」、「ピンク」・・・とどんどん色を探していきます。これだけでも結構、周りを見渡して注意を向けなくてはいけません。こうして

 

色々な「色」を次から次へと探している間は、決して別のことは頭に浮かんでこないことは間違いありません。

◇◇◇ 形を探す ◇◇◇

これも「色探し」と同じで、自分の周りを見渡して例えば「〇を探す」見つかったら「△」を、次に「◇」を、そして「平行四辺形」、「台形」、「矢印」、「ハート」、「×」、「?」、「~」、「楕円」…などとドンドンと思いつく形を探していきます。簡単なことですが、「平行四辺形」や「台形」などはなかなか見つかりませんよ。電車で窓から外を見ていると、様々な住宅の屋根や装飾の中に見つけることがありますが、その時はホント、うれしくなります。

◇◇◇ いろいろなしりとり ◇◇◇

これは自分の頭の中でできることなので、簡単です。ただしりとりだけを続けていても飽きるので、すこし難易度を上がて「2文字しりとり(かならず2文字の言葉を探す)」や「3文字しりとり」「4文字しりとり」なども面白いです。さらに「逆しりとり」。これは例えば、最初に「あたま」という言葉を思い浮かべたら、次は「あ」が末尾にくる言葉を思い出します。例えば「ココア」。その次は「コ」が末尾にくる言葉、例えば「ネコ」など、次は「ネ」が末尾にくる言葉は・・・などとやっているとあっという間に5分や10分は過ぎてしまいます。少なくともその間は、頭の中から厄介ごとは追い出されているわけです。

これ以外にも自分で工夫されていろいろな脳内作業をしてみてください。なかなかおもしろいですよ。

そして最後に・・・

いかがですか?キーワードをこころの中で唱えて、キーアクションをする、そしてその後いろいろな意識の切り替えを行う、これだけのことですが、何か頭に厄介ごとが浮かんで来たらすぐにこれをしてみます。それを習慣化していくとかなりの程度、気が付いたら気持ちが切り替わっていることに気が付かれると思います。

 

先に紹介した平井先生の著書では、依存症だけでなく強迫性障害やリストカット、その他のいろいろな症状の方にも効果があると紹介されています。

 

そして最後にできればこれを付け加えて行ってほしいということが一つあります。

それは「最後に『楽しかった思い出』『うれしかったこと』などのポジティヴな体験を思い出す」ということです。

最後にこういうポジティヴな思い出を頭に浮かべることで、思い出したくないことを忘れ、意識を切り替える体験のパターンに好ましい印象を植え付ける、感情的な「強化刺激(反応を強化する刺激)」を与えることになります。

 

さていかがでしょうか?やってみるとそれほど難しいものではないということがお判りでしょう。あとはあなたが「あぁ、また自分は同じことを考える悪循環に陥っているぞ」と気が付いた瞬間に、気持ちの切り替えのスイッチを入れる習慣を身に着けること!

一度試しに、やってみませんか?