「ひきこもり」と言うのは病名ではありません。厚生労働省によるとひきこもりは「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人と交流をほとんどせずに、6か月以上自宅に引きこもっている状態」であると定義されています。これからそのひきもりについて解説をしていきます。
ひきこもりと言っても、実は様々な状態があります。まず簡単にその説明をします。
ここで使っている「ひきこもり」と言う状態は、以前は統合失調症等の精神疾患の方々が興奮や著しい不眠、あるいは幻覚・幻聴などの症状や被害妄想から、暗い部屋の中で窓の隙間に目張りして閉じこもっている状態を指すことがほとんどでした。
しかし現在では必ずしもそういう方々だけでなく、たとえば様々な事情から対人緊張や不安が高く自宅から出られないという人たちも含め「社会的ひきこもり」という名称が使われるようになりました。具体的には「発達障害が背景にあるひきこもりや不登校などの対人緊張や不安から遷延したひきもりなどです。
しかしここではそれらを含めて「ひきこもり」という名称を使わせていただきます。
統合失調症などの精神疾患からの引きこもりは、何とか病院へつながると抗精神病薬を中心とした薬物療法で症状が落ち着く事が多く、次第に社会へ戻られることが多いようです。
最近増えているのが発達障害からのひきこもりです。彼らはコミュニケーションが苦手で対人緊張が高くなりがちです。もちろん診断の有無に限らず、グレーゾーンの方も同じです。薬物療法で軽快される方もいらっしゃいますが、効果のない方やそもそも服薬を拒否される方もいらっしゃいます。
本来的な特性によるものなので、彼らの特性に熟知したサポート機関へつながることがないと、長期化することがあります。
学生時代の不登校の経験やいじめなどの対人不安からのひきこもりです。不登校が遷延すると場合によっては長期化することが多く、家庭内暴力などの問題も併発することがあります。彼らも発達障害の場合と同じく、病院や福祉へつながることが簡単ではありません。
ひきこもりといってもそれそれがそれぞれの事情や背景を抱えていらっしゃるのですが、共通する背景も考えられます。それがやはり「エネルギーの低下」ということでしょう。ご家族としては彼らが社会へ出ていくことをゴールにして考え、そこから逆算して「どうすれば外出してくれるか」「どこか行き場所はないだろうか」と働きかけをしがちです。そして彼ら自身も社会参加を望んでいないわけではないのですが、現状では不安や緊張に打ち勝って動き始めるエネルギーが出てこないのです。それを踏まえて彼らのエネルギー量を見定める必要があります。
睡眠と食事はやはり生物としての人間の活力の指標です。食事は観察しやすいですが、睡眠についてはなかなかわからないので本人に確認して下さい。
ポイントは、
ア)寝床に入ってからすぐに眠れるか
どうか(入眠困難)
イ)夜中に目が覚めないか、その後ま
た眠れるか(再入珉困難)
ウ)朝目覚めた気分(睡眠時間に関係
なく、十分に眠れた気分がある
か)
エ)あと夜中にみた夢やそれについて
の感想を聞くことなども私はよく
聞いてみます。
エネルギーが低下すると当然人との接触も減ってきますし、興味関心が薄れてきます。「これまでの趣味や楽しみが最近も続いているか」も大切な指標の一つです。
また対人緊張の高い彼らにとって、家族以外の人との接触は大変なストレスです。家から出て買い物行くことはあるか、ネットやゲームの世界での人との接触は生身の現実よりはハードルが低いでしょう。
人との関係を全く切ることなく、安心してひきこもれる事を目標にツールとしてのネットやゲームを良くも悪くも大切にしたいものです。
家族とのコミュニケーションもなくなってくる場合もあります。ですがここは最後の砦として維持したいものです。具体的には会話がベストですが、できない場合にはメモによる交流も。
ポイントは
ア)まずは「挨拶」から
「おはよう」「おやすみ」「あり
がとう」「今日はいい天気だね」
などの挨拶から始めましょう
イ)次に「雑談」へ
テレビを見ながらなどの、できる
だけ意味のない、世間話がいいで
しょう。「外出してみない?」
とか「働きく気になった?」など
と言う会話は逆効果です。
ウ)そして「お願い」と「交渉」を
次に彼らに働きかけるポイントと
いして「お願い」と「交渉」をお
勧めしています。「ちょっと、そ
れ持ってきてくれる?「ここ持っ
てくれる?」などのハードルの低
い「お願い」をして必ず「ありが
とう」「助かるわ」と続けます。
さらに「無理ならいいんだけど、
ここをこうしてくれると助かる
わ」と家事の手伝いなど、少し複
雑な交渉を入れてみてはいかがで
しょうか。
ただし決して無理強いはせず「断られることを前提に」交渉します。でないと断られたときに腹がたってしまいますからね。
最後にひきこもりからの回復についてまとめてみます。これについては様々な考え方があり、それぞれの人によって違うかもしれませんが、ここでは私の考え方をまとめてみます。
ひきこもりからの回復に至る道筋はやはりまず家庭の中で始まります。医療や福祉の場に参加できるのなら別ですが、家から出れない場合、やはり家族こそが最初の資源です。
そこのポイントは「安心してひきこもれる場を提供できるかどうか」ということと、そのためにも「家族の精神的な安定を保つ」ということです。
家族が不安と焦りから「なんとか早く立ち直らせたい」と本人に働きかけても、本人のエネルギーが不足している場合むしろ逆効果で悪循環につながります。
本人に安心してひきこもってもらうためにも「家族の精神的な安定」が不可欠です。そのためにカウンセリングにつながることは大切ではないでしょうか。
ご家族の苦しみと状況への不安を冷静に受け止め、見通しを与えてくれる第3者の存在は家族の精神的な安定をもたらし、それが本人の気持ちの安定につながると信じています。
家庭の中で安心してひきこもる日々を十分に積み重ねることによって、少しずつ生活のペースを取り戻してきます。
そしてできれば具体的な目標(どこどこへ遊びに行くなど)の中で生活リズムを家族のリズムに近づけていきます。
また何気ない会話の中で笑顔が増えたり、冗談が出るようになればかなり余裕が出てきたと思ってよいでしょう。
そして「しつこくない程度に、マメに」声をかけて、少しずつ買い物や娯楽、またはサポート施設やカウンセリングに誘いかけてみましょう。
特に本人に発達障害傾向のある場合は
ひきこもって自分のリズムだけで生活していくことが安定に繋がってしまい、彼らのこだわりになりかねません。
そういう場合、「待っている」だけではなかなか変化につながりません。具体的で現実的な目標と理由を伝えて、本人の納得の上で家族とともに外へ出て行くという「納得を伴う誘い掛け」を、あまり期待することなく、しかしあきらめずに誘い続けることが必要でしょう。
最後に「ひきこもりの回復のゴール」について私の考えをまとめてみます。
これについては色々な考えがあります。例えば「社会参加」として「サポート・グループや当事者の会合に参加」できることを目標にする場合もあります。しかし場合によってはそのグループの範囲内だけで留まってしまい、それ以上の広がりにつながらない場合もあります。
またご家族としては将来を考えて、何とか働けるようになってほしい、という願いをお持ちの場合もあるでしょう。
それも当然の願いですが、しかしやはり最終的にはご本人自身が「自分の生き方はこれで良い」と納得される生き方を見つけることではないでしょうか。
それは年齢を重ねたり状況が変われば、新たに変更されていくものですが、「生きる」ということはひきこもりの本人に限らず、「自分はこれでいいんだ」と納得できる折り合いを探し続ける過程ではないかと思っています。
その納得を得られるまで、何度でもやり直し続けていくこと、そしてそれを見守り続けていくことが大切なのではないか、と私はそう思っています。
限られた範囲で簡単にまとめましたが、実際の回復はそう簡単に成し遂げられるものではありません。何年~何十年とひきこもられている方も多く、親の世代が80歳、ひきこもりの本人が50歳をこえるという「80-50問題」が言われています。ご家族もまたサポートにあたるスタッフも長期にわたる覚悟とあきらめない覚悟を心に秘めて対応することが求められています。また詳しくは触れられませんでしたが「発達障害」が背景にある場合、それに応じた具体的な対応が必須です。カウセリング・フィス岸井は「御家族・御本人の心理的な安定」とともに「より納得できる人生の在り方」を見据えた視点を持ってサポートさせていただきます。もし必要があればどうぞお申し出ください。