うつ病は今や100人に3~7人が罹患すると言われている病気です。そして平成8年には43.3万人だったうつ病等の気分障害の総患者数は、平成20年には104.1万人と12年間で2.4倍に増加し、2014年、2017年には、111.6万人、127.6万人と増加傾向が続いていることが厚生労働省の統計で公表されています。このように増加傾向にあるうつ病は一方で、基本的にきちんとした治療を受ければ治る病気であるとも言われています。
そこで今も日々うつ病に苦しむ方々が多数いらっしゃる中で、今回は主に回復期に差し掛かったうつ病の方への「うつ病へのつきいあかた」について簡単にまとめてみたいと思います。
「うつ」や「うつ病」あるいは「抑うつ」など様々な言葉で「うつ(鬱)」が語られることがあります。気を付けないとどれも同じ意味だと取られがちですが、「うつ」「抑うつ」と言うのは基本的に気分の落ち込みを意味するので、日常生活においてもまた様々な病気や疾患の症状として見られます。しかし「うつ病」における「うつ状態」というのは、日常的な落ち込みや落胆程度の気分状態とは比べることができないほどの深刻さなのです。
ところがこの「うつ・抑うつ状態」と「うつ病」の違いは周囲の人から見るとなかなか判断が難しく、専門的な診断基準でも変化しつつあります。ですから「なんだか気分が沈んで元気が出ない」とか「あの人はどうも考え方がネガティヴで暗い」などという印象だけで判断したり、自己診断されると間違いにつながりかねません。また、よくネットなどにある「自己診断表」などをチェックして「どうも自分はうつ病かもしれない」と思い込むことには気を付けてくださいね。どうしてもはっきりとさせたいときは病院に言って専門科医の診断を受けてください。
一般的には落ち込み気分よりもさらに重篤な「うつ状態」が長く続いてご本人が辛く苦しい思いをしたり、日常生活に差支えが生じてきた時に「うつ病」という表現が使われます。
具体的には最新のアメリカの精神疾患の診断基準(DSM-5)によると「うつ病」は以下のような診断基準になっています。
<うつ病の診断基準>
以下のA~Cをすべて満たす必要がある。
A: 以下の症状のうち5つ (またはそれ以上) が同一の2週間に存在し、病前の機能からの変化を起している; これらの症状のうち少なくとも1つは、1 抑うつ気分または 2 興味または喜びの喪失である。 注: 明らかに身体疾患による症状は含まない。
1. その人自身の明言 (例えば、悲しみまたは、空虚感を感じる) か、他者の観察 (例えば、涙を流して
いるように見える) によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。注: 小児や青年ではいらい
らした気分もありうる。
2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退 (その
人の言明、または観察によって示される)。
3. 食事療法中ではない著しい体重減少、あるいは体重増加 (例えば、1ヶ月に5%以上の体重変化)、またはほとん
ど毎日の、食欲の減退または増加。 (注: 小児 の場合、期待される体重増加が見られないことも考慮せよ)
4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止 (ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚では
なく、他者によって観察可能なもの)。
6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
7. 無価値観、または過剰あるいは不適切な罪責感 (妄想的であることもある) がほとんど毎日存在(単に自分をとが
める気持ちや、病気になったことに対する罪の 意識ではない)。
8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日存在 (その人自身の言明、あるいは他者による観察によ
る)。
9. 死についての反復思考 (死の恐怖だけではない)、特別な計画はない反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺す
るためのはっきりとした計画。
B: 症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
C: エピソードが物質や他の医学的状態による精神的な影響が原因とされない。
精神疾患の診断・統計のマニュアル アメリカ精神医学会 Washington,D. C.,2013(訳:日本精神神経学会) より引用
ではうつ病はどのように始まり、どのように進行し、どのように治癒するのでしょう?これは人によって状況によって様々ですが、取り合えず一般的なモデルを説明します。
これは個人差がありあまり固定的にとらえられると困るのですが。ごくおおざっぱに言って、「落ち込みのひどくなる時期」⇒「うつの底」⇒「回復期」⇒「寛解状態」というような経過を経ることが多いようです。もちろん人によって異なりますし、場合によっては十分な回復に至る前に再発したり長引いてしまうこともあります。
右の図はうつ病の罹患から寛解までの大体の経過を図示したものですが、必ずしもこの図通りの経過をたどるとは言えないものの、先ほど述べた「落ち込みのひどくなる時期」⇒「うつの底」⇒「回復期」⇒「寛解状態」が見て取れると思います。
その中で、落ち込み初めてうつが深刻になり始める時期とうつの底から回復し始める時期に、波の振幅が大きくなることが見て取れます。確かにこの両時期は、体調・精神状態ともに大きく揺れ動くため、波の底に当たる時に絶望感や投げやりな気分になりがちで自殺や再発などに結び付きやすくなることは注意しておく必要があります。
さらに治癒が進み寛解状態になったとしてもグラフでもわかる通り、小さな波を繰り返しながら続いていくことが一般的です。そういう意味ではうつ病が完全に治るというよりも、軽いうつ状態を抱えながら気分や体調の波に左右されない毎日を送れるようになったということだと思われます。このことについてはまた後で触れたいと思います。
うつ病の前兆と言うか、初期症状について簡単にまとめてみます。以下の状態は実際にうつ病に罹患された方々の直接の言葉や体験をもとにまとめられたものです(『憂うつの心理』外岡豊彦編著 柏樹社 より引用)
1.これという直接の原因なしに“気が沈む”ことが、ふと、まざりはじめる。
2.言葉や動作がゆっくりになる、これまでより少なくなる。
3.行動が減る一方では、イラつきが増す。人によっては家族などに対してかえって厳しく
なる、非常にせかせかするなど。
4.些細な事をどっちにするか決めるのに、負担感やじまるという気持ちがつきはじめる、
決断すること自体が負担に思える。
5.物事に対する意見、将来の予見的意見も含めて、とかく慎重な意見が多くなる。
6.従来なんでもなかった、日常の身の回りの環境についての感じられ方が、なんとなく不安やあるいは、身体の拒否嫌悪の色が付く。
7.人はなぜ生きるのか、というような生きることそのもの、人生等について問い直し、考えなおしの念を抱く。
先ほど挙げたうつ病の経過の中の「落ち込みのひどくなる時期」前後の様子ですが、実際に罹患された方の経験談をまとめられただけあって、伝わってくるものがあります。もちろんこれも個人差がありますし、一時的な「普通の落ち込み」と共通する点も多々あります。ただ先にあげたDSM-5の診断基準とも重複していることからも、これらの傾向はやはり特徴的な症状です。
ちなみにお医者さんが診察室でうつ病を疑うコツとして次のような点が挙げられていました。これらは自分以外の人の様子にふと違和感を感じた時に観察・確認するポイントとして参考になるかもしれません。(『自殺予防マニュアル』第3版 交易社団法人 日本医師会(編) 西島英利(監修) 明石書店より引用)
「診察室でうつ病を疑うコツ」
1.目や声、姿勢が弱々しい
2.多彩な訴えがある
3.とらえどころのない曖昧な症状がある
4.身体所見や検査結果に比べて、症状が強い
5.すでにいろいろな検査をして異常がなく、しかも症状が長く持続している
6.「この症状さえとれたら、元気でやれそうな気がします」と答える
7.調子が悪くても、「休むことができません」と答える
もちろんこれらの前兆や問いかけへの言動だけを見て判断するのも危険です。あくまでも一つの手がかり程度にとらえておいてください。同時にネットなどでよく挙げられている「自己診断表」なども同じように過信してはいけません。本人の申告は人によってはかなり主観に左右されます。やはり専門の病院に行って、専門医から客観的で冷静な診断を受けてください。
うつの増悪期と言うのはいわゆる「うつの底」状態の日々のことですが、この時期なことは大きく二つあります。
まずは「休息」。
一般的にうつ病を発症される人は、どちらかと言うと非常にまじめで秩序に合わせた精力的な日々を送られている場合が多いようです。病前性格、と簡単に片づけられるものではないかもしれませんが、そういう精力的な生き方が少しづつ疲労を蓄積させていきます。そしてコップにたまった水が何かのきっかけであふれるように、気づかないうちの疲労困憊が症状としてあらわれてくることが多いようです。そういう時に必要なことはなんといってもまずは「休息」です。身体的にも不調になり精神的にも意欲がなくなり億劫感が出てきますが、それは「休むことが必要だ」というサインだと思って良いでしょう。しかしもともと勤勉で精力的な方にはこの「休息」自体が大変罪悪感や自責感をもたらします。こういう時は周囲の人が本人と話しながら休息へと導くことが大切ではないかと思います。
次に必要なことは「のみぐすり」。
うつ病である可能性があれば、やはりまず専門医への受診をお勧めします。データによるとうつ病と自覚しながら病院受診する人は約20%だと言われていますが、うつ病自体は「脳の化学物質セロトニン」の減少が原因だとされている以上、そのセロトニンを調節する「のみぐすり」を飲むのが一番大切です。
症状的に精神症状が表に出てくるので「こころのやまい」的な印象がありますが、何よりもその基盤にある脳への薬物療法が第一選択であることは間違いありません。飲み薬の効果が表れるまでには最低でも2~3週間はかかるので、キチンと服薬し続けることがとても大切な事です。まずは専門医のところへ受診してください。
うつ病の一般的経過としてのモデルを先に引用しましたが、そのグラフにあるように「落ち込み期」⇒「うつの底」⇒「回復期」⇒「寛解期」と言うように次第に移行していくのが一般的です。
なにより苦しいのは、先にも述べた「うつの底」期です。この時期は不調のどん底にいる感覚のままで安定してしまう時期であり、それがまるで先の見えないトンネルに入ってしまったような見通しの立たない苦しみと絶望感を生み出します。
しかしどんなトンネルでも抜けられないトンネルはありません。今は周りも見えない漆黒の闇の赤でしょうが、うつ病はかならず治る病気です。周囲の人が「うつ病は必ず治る病気なんだ」という言葉を繰り返し伝えることは大切な事だと思います。
今このような事を書いたのは、うつ病の回復期には「ひとぐすり」と「ひにちぐすり」が大切ではないか、と思うからです。もちろんうつ病の経過全体に処方された「のみぐすり」は大切ですが、同時に次第に回復期に移り行くときにはさらに周囲の人の支え「ひとぐすり」も大切です。具体的には家族を含めた身近な人のうつ病に対する理解とともに、この時期となると自分自身の生き方も含めた見直しをカウンセリングで行うことも必要になるでしょう。
特に回復期は、先にも取り上げた「うつ病の経過の図」でもわかる通り、体調の波・精神状態の波が激しくなる時期でもあります。うつの底の時期は基本的に生命エネルギーが枯渇している時期でもあり、不調ながらも安定した(?)時期ですが、しだいに生命エネルギーが復活してくると波が大きくなってきます。特に比較的好調になりつつある波が一気に不調に反転した時の落差の大きさが落胆や絶望感、そしてそこからや自殺願望へと結びついてしまいかねません。こういう時にカウンセリングなどで現実感覚を取り戻し、不安や絶望感を聞いてもらうことは大変大切な事だと言えるでしょう。
そしてこの時期を何とかやり過ごし、時間はかかるけれども必ず良くなる時が来るという「ひにちぐすり」という希望の感覚を持っていただくことも大切な事です。このような不安定さの波は永遠に続くものではなく、波をなんとかに乗り越える日々を積み重ねることで次第に改善していくという希望をカウンセラーとともにこころに確かめる日々を送ってほしいと思います。その希望が持てないと感じた時に絶望に飲み込まれてしまうのではないでしょうか。回復期から寛解期へと至る時こそ、「ひとぐすり」「ひにちぐすり」を大切にしましょう。
「多少の波はあるけれども、アタフタせずにやり過ごす」ことができるようになってきた状態こそ、寛解期と呼ぶ状態だと思います。
うつ病が「治る」とはどういうことか?
もちろん定義的にはうつ病特有の身体的・精神的なうつ状態がなくなるということを指すわけですが、しかし単に症状が消えたということだけでは心配が残ります。と言うのはうつ病の場合、再発率もかなり高く、場合によってはうつ状態が長期間続く遷延状態になってしまいかねないからです。
確かにうつ病は基本的には脳のセロトニンの問題だからそれを改善すればよいのではないか、ともいえるのですが、その状態が発生するにはそれなりの背景や基盤的な虚弱性があるともいえるからです。ですから「治る」と言う以上は、うつ病発症の背景となる要素も改善する必要があるでしょう。
うつ病発症の病前要素として「病前性格」と言うことが言われていますが、私の経験から言うと「こういう性格の人がうつ病にかかりやすい」ということはあまり感じません。むしろ「誰でもなる可能性がある」病気であることから病前性格よりも、1)うつ病のきっかけとなりやすい状況因 2)うつ病の症状を悪化させやすい性格因 がポイントではないか、と感じています。
1)うつ病になりやすい状況因
これはその人の置かれた環境因・状況因ということで、たとえば「常にストレスにさらされ、それが解消する見通しがたたない状況」:例えば職場環境の厳しさ、ハードな仕事やストレスフルな人間関係から逃れられない状況など、「急激に受け止められないほどのストレスがかかった場合」:例えば昇進、叱責、転居、出産、進学など、が挙げられます。こういう時はやはりその場を離れるということが必要かもしれません。当然身体も疲労困憊していることでしょうから、その為にも休養などの環境調整は絶対に必要です。
2)うつ病を悪化させやすい性格
休養が必要であると頭ではわかっていても、「休むとなると周囲に迷惑がかかる」、「みんな忙しいのに自分だけ休むなんて申し訳ない」「たとえ苦しくても休むなんて弱音を吐けない」と言うような頑張りすぎる秩序指向の性格の人がうつ病を悪化させやすいのは確かでしょう。ですからその性格・物事の対処のパターンを見直す必要があります。それにはできればカウンセリングを受けられることをお勧めします。「ひとぐすり」です。
うつ病が直るということは、この二つが改善されるということではないかと思います。
回復期・寛解期においては、1)これまでの職場や人間関係の改善と 2)物事の対処パターンや考え方のパターンの変化が必要になります。それをしなければ最悪の場合、再発ということも考えられます。そういう意味で、環境調整とカウンセリングを通じて、これまで生き方を見直すとともに、多少のうつの波が来てもアタフタせずに波を上手く乗り切っていく柔軟性を身につけることが「うつ病が直る」ということではないか、と思います。 いかがでしょうか。
うつ病の体験記・闘病記は沢山出ていますが、その中でも私が読んだものや皆さんが良く知っている有名人の体験などの本からいくつかを取り上げてみました。なお専門書はここでは取り上げていません。あくまでもうつ病になられた方の気持ちや体験を理解し、参考にするためにまとめてみました。(すべての写真はAmazonより)
報道ニュースキャスターとして人気上昇中だった丸岡いずみさんが、体調不良、あるいはうつ病に罹患し、その間の詳しい事情や苦しかった闘病生活についてこの本で知ることができました。
丸岡さんと言えば、どちらかというと元気印で体育会系のイメージもあったので、意外でしたが、この闘病記を読んでいくとうつ病というものの実態が良くわかります。
“もともと私は、深く思い悩まずに、とりあえず行動してみるタイプです。「大丈夫!」「なんとかなるさ!」といった前向きな思考回路なので、日常的にはほとんどストレスをためこみません、失敗しても、気分が落ち込むこともありません。つらいことが起きても、その日のうちに解消できます。社内の人間関係も気にしません”と言われる丸岡さん。
その彼女がうつ病になってしまったということは、うつ病の発病要因として病前性格の占める割合が必ずしも高いというわけではないことが推測されます。たんなる「こころの病」としてだけで片付けられないということがわかります。脳の病気であるということもできるのです。
しかしだからと言って、全くこころが関係ないというわけではなさそうですね。発病の要因としては「こころ」あるいは「脳」と簡単に割り切ることがでないということが良くわかります。丸岡さんも、性格自体は男っぽい活発な性格だったそうですが、仕事は大変ハードでかなり突っ走ってきたおかげでストレスが溜まっていたということです。
その丸岡さんが仕事の傍ら、早稲田大学大学院にまで進み、認知行動療法を学ばれていたとは知りませんでした。彼女は専門で学んだ認知行動療法で自分自身を治療できると思い、せっかく精神科で処方してもらっていた薬も飲まずにいたため、長引いてしまったと反省されています。やはり薬物治療は大切なのです。
この著書からいろいろなことを学ぶことができますが、何より一度「地獄」を見た方がこうやって回復され元気な姿を報告されることが、現在苦しんでいらっしゃる方にとっての希望につながるかもしれません。そういう意味で大変意味のある本ではないか、と思わされました。
「うつ病は必ず治る病気なんだ。必ず治る。人間は不思議なことに誰でもうつ病になるけど、不思議なことにそれを直す自然治癒力を誰でも持っている」
この言葉は「うつ病九段」の著者でうつ病に襲われたプロ棋士、先崎学さんの精神科医であるお兄さんが先崎さんに語った言葉です。
この本はそのお兄さんに回復期のリハビリとして「体験記を書いてみてはどうか」と勧められて書かれた「世にも珍しい本」ということです。
それにしても先崎さんの筆力に乗せられて一気に読んでしまいました。発病される前後から、症状が悪化し苦しまれている時の様々なエピソードや思い、さらに回復期の不安の波に揺れ動かされながらも、精神科医のお兄さんやご家族、そして何よりプロ棋士の仲間の皆さんに支えられながら、回復して再びプロ棋士の世界へ戻られていく様子がとても身近に感じられました。
なにより先崎さんが病気に苦しんでいるちょうどその時に、あの天才高校生プロ棋士、藤井聡太さんが登場しマスコミで取り上げられ、藤井フィーバーが巻き起こっていたのです。その将棋界が注目される様子を見てますます自分の存在の小ささ(うつ病のせいですが・・)を感じ、病院に入院することになったと言う話は、現時点での藤井さんの大活躍ぶりと呼応してものすごく身近に感じるお話しでした。
さらに退院し、復帰を目指して悪戦苦闘している時に、あの羽生さんと交わす会話のやり取りも、なんともリアルを感じて、まるで自分がその場にいたような錯覚をするエピソードでした。先崎さんの人間臭さや正直で飾り気のない筆力に魅せられて、あっという間に読み終えてしまいました。
うつ病の体験記として一流(?)の貴重な本だと思います。興味があれば、ぜひ!
なお冒頭にあげたお兄さん言葉の続きを最後に載せておきます。
「・・・だから、絶対に自殺だけはいけない。死んでしまったらすべてが終わりなんだ。だいたい残された家族はどんなに辛い思いをするか」
そうです。私もあなたに死んでほしくはありません。絶対に。
「ふり返ってみると、私の人生は精神科医として働くのが表看板だとすると、うつ病(気質)を持つものとして、いかに「楽な生き方に自分を変えるか」ということが陰のテーマだったように思います。」
この本の<はじめに>のところの文章です。著者の蟻塚先生は主に統合失調症のリハビリテーションに取り組まれてきた先生ですが、ご自身がうつ病になり苦しまれた体験から、この本を書かれました。
先生のお人柄は、ご自身が描かれた文章を読まれた方に「蟻塚君、君の文章には『べき』が多すぎるんだよ」と指摘されるほどの「べき人間」だったということです。
ところがこの本を読んでみると「べき」どころか「おやじギャグ(失礼!)」満載で大変深刻なテーマをわかりやすく、しかも愉快に読ませていただき、大変気持ちが楽になりました。
さらにさまざまな具体的なうつ病の乗り越え方やものの考え方(本書の中では「手ぬき術」「低空飛行」「ともかく主義」「トンズラ」のすすめなど)を紹介してくれて大変参考になりますよ。
こういう体験記を読ませていただくと、うつ病になった意味、というか、うつ病にならざるを得なかったそれまでの自分の生き方を見直すことをうつ病が教えてくれているのかもしれないと改めて思います。
もちろんそれには長く苦しい時期を乗り越えん変えれば行けないのですが、最後に蟻塚先生が書かれた文章を紹介します。
「うつ病は誰でもかかる病気。しかし重くなると悲観的観念に支配されて自殺することもある怖い病気です。同時に、適切な治療により回復する可能性をもった病気でもあります。油断してはいけませんが絶望するにもおよびません。
どちらかというとうつ病の世界を知ると『生きていてよかった』と思えるようになります。」
この2冊はうつ病を体験した有名人を中心にまとめた闘病記です。「うつヌケ」はコミック形式で、「鬱伝」の方はプロインタビュアーの吉田豪さんの対談をまとめたものです。
こうみればたくさんの有名人がうつ病に苦しんでいることがよくわかります。改めてうつ病は誰でもがかかる可能性のある病気であることがわかります。
この2冊に登場する有名人の一部のお名前を紹介すれば、ロックミュージシャンの大槻ケンヂさん、フランス哲学研究者の内田
樹さん、俳優のリリー・フランキーさん、漫画家のみうらじゅんさん、演出家・脚本家・俳優・小説家など多彩な松尾スズキさんなどなど。
その他の方々も含め、それぞれの貴重な闘病体験や回復の過程を読ませていただくことで逆にうつ病に飲み込まれずに「生き抜く」コツみたいなものが得られるかもしれませんよ。
ここまで上げた闘病記は比較的ライト・タッチな表現の本でしたが、最後に取り上げた本は2冊とも著者の表現力というか文章力が高いので、かなり詳しくリアルにうつ病の苦しみを伝えてくれます。
ご自身の苦しい胸の内だけでなく、主治医の所見や薬の具体的な処方、さらに友人や家族とのやり取りや書簡まで、かなりプライベートな範囲まで載せられていて、「病状観察日記」という趣を見せています。
それだけに両著者の正直な言葉が読んでいるこちらまで突き刺さるような時がありますが、そのぐらいうつ病の苦しみと言うのは深刻で切実なものであることが伝わってきます。
貴重な闘病記であり、一人の人間の苦しみながらも生き抜く姿を教えていただける記録です。
神戸新聞のマイベストプロにコラムを書いています。
左のバナーをクリックして下さい。
神戸新聞の時事問題専門家コラム「JIJICO」に
コラムを書いています。
左のバナーをクリックして下さい。
■ 聴覚障害児・者関連のカウンセリングならオフィス岸井へ
http://deaf-officekishii.jimdo.com/
■ 心理カウンセリングのフィーチ
サイトトップURL:https://feech.net
当サイトの紹介記事URL:https://feech.net/counseling-rooms/kobe/